【般若面との出会い】

最も古い(3〜4歳頃)記憶の1つに、茶箪笥の引き出しに仕舞われていた
小さな般若面の根付に恐れおののいていた事は今でもはっきりと覚えている。

その引き出しを開ける度に、この般若と目が合い凄まれ畏縮していたのだ。



もちろん当時は般若とは知らず、鬼というか地獄の閻魔のような認識で
何か悪い事をしても常にその鬼に見破られているような気がしていた。

それはまるで日常の中に小さな「なまはげ」が存在していたようなものである。


そんな般若に対する畏縮が畏敬に変わったのは
ローリングストーンズのギタリストキース・リチャーズが
右手の中指に着けていた髑髏の指輪を見た19歳の頃だった。

自分にとってキースのスカルリングのような象徴となりうる依り代は?
と自問した際に幼少期から暮らしの傍らにずっと在る
この般若面を携えていたのは自然な流れのように感じた。

幼少期には見破られていると感じていたが、実は見守られていたのだ...と。


最初に手にした般若の指輪は、浅草橋で見つけた合金製のチープな作りの代物で
後に枠が破損し、宝飾職人の師匠に銀製の枠を仕立てて頂いた「Mark-I」である。

それから数年後の1997年頃には自分でも少しばかり手掛けられるようになり
その当時に想作した「Mark-II」を、その想いと共に今でも指針として着けている。

「Mark-II」は蒐集していた般若面の資料を元に自らに重なる表情(陽)に
髑髏のエッセンス(陰)が添えられた独自解釈による「陰陽般若」である。



角度によって怒りと嘆きの表情と成るそれを
「trial and error 〜挑みと葛藤〜」と捉えている。

また、モノ作りする者としては、一方的・主観的なモノの見方ではなく
異なる角度からも見つめ直す事で、新たに見い出す探求の指針でもある。


そんな「Mark-II」をベースに実験的な取組として展開したものが
Mark-V(1998)、Mark-W(1999)、Mark-V1999)で
渋谷の路地裏でスタートしたばかりの「くりから工房」が
最初に発信した想作におけるストーリーとなった。

Mark-V〜Half Skull、Mark-W〜Lady Pirate、Mark-V〜Lady Franken




その翌年(2000年)には『挫喰髏(ザクロ)』にて鬼女(鬼子母神)を想作。


2006年には般若面と般若菩薩を考察する中で「Mark-[〜眠り般若」を想作し
般若菩薩の知恵の力による悟りを、瞑想しているかのような眠りの面に描き重ねた。



これはドレスアップ・リングと呼んでいて
「Mark-II」とドッキングするシステムになっている。


2007年にもドレスアップ・リングにて「Mark-IX〜破れ般若」を想作した。



これは仏の顔が割れ、中から十一面観音が覗いているという「宝誌和尚立像」の
奇妙奇天烈な造形に惹かれ、「巻き髪般若」を流用して反映させてみたものである。


2020年、最初に作った髑髏般若から23年を経て「Mark-X〜Half Skull」に取り組む。



今回の挑みは、くりから般若シリーズの特徴である
「髑髏の様に窪ませた目元」の印象は残しつつ
般若という仮面にマスカレード風の装飾を施す事にありました。

理想とミニマルさを交錯させる一方で
よりリアルな髑髏面の追及出来たことから
この「Mark-X」を用いて二次元の鬼女キャラクターを
モデルとした「Mark-XI」へと展開してみた。




「Mark-II」想作の際に蒐集していた般若面の資料とは別に
一瞬で心を奪われた鬼女の大絵馬(板に描かれた絵画)がある。



【額面著色鬼女図〜柴田是真/王子稲荷神社所蔵】

その様は真蛇のような迫力ある凄みの形相で威嚇しながらも
この「してやったり」感を漂わせる表情が見事に描かれており
個人的にはモナ・リザのような存在で全身に稲妻が駆け巡った。





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