【烏天狗〜誕生〜】

カツカツカツ・・・茂みの奥深くで
何かを突っつくような音を頼りに辿ると
高々とそそり立つ数々の樹木の中で
ざわめく風とは異なり小刻みに揺れる枝がある。

小枝やら松葉やらから成る小さな巣窟に包まれ
銀墨色の卵の殻を破り鴉天狗が誕生しようとしていた。

5本指の小さな手と、足の3本爪を
卵の殻に掛けて這い出ようとしている。

未だボヤけているものの、見上げた空の美しさと
溢れんばかりの心地良い風の行方を感じている…。

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2通りの蓋がある鏡蓋根付『貴鴉〜たから〜』

1つは卵から孵化する直前の様子を描いたもので
卵の一部からは鴉天狗の嘴が見えています。

もう1つは孵化した直後の鴉天狗の様子を描いたもので
その誇らし気な嘴は啼いた鴉がもう笑うかのようです。
伸びきらない小さな翼が立てる微かな羽音が聞こえてきそうです。

巣の裏側には誕生を喜ぶ大天狗の妻が
誕生したばかりの我が子を見守りながら
やがて荒々しい漆黒の翼が神通力を伴って
霊妙不可思議な未来へと轟く姿を願っています。

巣の内側には母天狗が蒐集したと思われる
真っ黒い鴉の羽根(父親の大天狗の羽根)と
鴉が好むされるハンガーと光り物のCDが
誕生祝いの家宝として捧げられています。

【材料】
・鹿角
・象嵌:白蝶貝黒蝶貝
・純銀

制作:2009年

高円宮コレクション






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